Android 市場よりも熱意を信じる。世界3000万人のファンが待っていたスマホ向け3Dアクション「ゲットアンプド モバイル」の開発陣インタビュー

 サイバーステップが2017年内に全世界で順次配信する,スマホ向け3Dオンラインアクションゲーム「ゲットアンプド モバイル」(以下,GAM)(iOS / Android)は,2000年代前半からシリーズを重ね(※),サービスが続けられてきたPCオンラインゲーム「ゲットアンプド」シリーズの最新作だ。古強者の凱旋に,トキメキを抑えきれないGAファンは多いことだろう。

※現在は「ゲットアンプドX」「ゲットアンプド2」のPC向けサービスが行われている。

 GAシリーズの魅力は,3Dフィールド上で自身のキャラクターを動かし,1対1から複数人戦まで,さまざまなプレイヤーとのリアルタイム対戦を楽しめるバトルにある。また,多種多様なアクセサリやアイテムの存在や,本格的な立ち回りを可能とするシステム面の充実など,その奥深さは見た目だけでは測り切れない。

GAMの開発陣。左から高橋亮太氏,有馬もと氏

 本シリーズのプレイヤー数は本稿のタイトルの通り,韓国で1000万,中国・台湾・香港でそれぞれ500万,そのほかアジア・欧米地域でもサービスされた結果,“累計プレイヤー数が3000万人超”という実績を誇っている。とくに韓国では約1億円もの予算を投入した世界大会が開かれるなど,熱狂的な盛り上がりをみせていた。(関連記事)

 もちろん,スマホゲームとなったGAMでもその勢いは確かなもののようで,昨年2016年12月に中国で実施されたクローズドβテストは,想定以上のプレイヤーが押し寄せる大反響に。開発陣の嬉しい悲鳴があふれたようだ。そんなわけで今回は,GAMにまつわるアレやコレやをサイバーステップの開発陣に尋ねてきたので,その模様を紹介していこう。初めてGAを知るという人も,引き続き目を通してみてほしい。

《リンク:「ゲットアンプド モバイル」公式サイト》
http://corp.cyberstep.com/getamped_mobile
■「ゲットアンプド」に仕様書はいらない

4Gamer
 本日はお時間をいただき,ありがとうございます。今回はファンには待望のスマホ版「ゲットアンプド モバイル」についてお伺いしたいと思いますが,まずはお二人の自己紹介からよろしいでしょうか。

有馬もと氏(以下,有馬氏):
 有馬もとです。私はGAMではプログラマーリーダー,デザイン対応,そのほかディレクションなど,プロジェクト全体を支える管理者として動いてまして,“どれ”という肩書きがないんですよね。しいて言うなら,何でも屋さんでしょうか。

高橋亮太氏(以下,高橋氏):
 GAMの運営,ならびに弊社タイトルの海外運営を担当しております,高橋亮太です。私は弊社のタイトルを海外でリリースするためのライセンス交渉や,サービスの運営面などをサポートしています。

 私は入社当時にGAシリーズの海外運営を担当していまして,ゲーム内でGMゲームマスター)としてお客様とコミュニケーションをとったり,イベント現場で直接ご意見を吸い上げ,それを開発現場に届けるということをしていました。GAMでも海外展開に向けて,現地のパブリッシャさんと意見交換をしたりと,ゲームを盛り上げていくための折衝を行っています。

4Gamer
 御社の海外支社というと,公式サイトで確認できるだけで計9つの子会社がありますよね。GAシリーズにしても,アジア圏内でのサービスが非常に好調であったことから,高橋さんのポジションというのはかなりの重職なのでは。

高橋氏:
 そうですね。GAシリーズは韓国でものすごい大ヒットを記録したことから,GAMの展開については,弊社の代表取締役である佐藤(佐藤 類氏)にしても,海外に大きなウェイトを期待しています。

4Gamer
 そのGAMですが,企画の立ち上げというのはいつ頃の話になるのでしょう。

高橋氏:
 発端は3年ほど前,スマホゲーム市場への展開の先駆けとして,PC版のリソースを使い,GAのちょっとしたスマホ向けミニゲームを制作しようという試みからでした。その制作途中,GAの面白さはミニゲームで遊ぶことではなく,リアルに対戦するところであると社内の意見が揃い,2年ほど前に“スマホで遊べるGA”へと舵を切ったんです。

 しかし,当時はモバイル回線が3Gから4Gへと切り替わる時期でして,ラグをはじめとする通信環境に問題がありました。開発を進めていくには抵抗が強い時期でしたね。ですが,昨今はスマホを取り巻く環境がどんどんと向上してきたので,ここだという考えの元,本格的にプロジェクトをスタートさせたというわけです。

4Gamer
 GAの本当の面白さの探求から始まり,スマホの通信環境が洗練されたことで動き出したわけですか。いってしまえば時代が追いついたと。

有馬氏:
 私がGAMと関わったきっかけは,佐藤からSNS越しで「飲みに行かない?」と誘いを受けたことでした。

 私は元々サイバーステップに在籍していましたが,その頃は違う企業へと移っていました。ただ,佐藤が“そういうことをめったに言わない人”であると知っていたので,これは何かあるんじゃないかと思い,誘いを受けたんです。

4Gamer
 気になりますね。続けていただけますか。

有馬氏:
 「明日すぐに飲みに行きましょう」と返し,飲みの場に行ったら,モバイルゲームアプリを開発できる人が足りないから戻ってこないかと訊かれました。そこでつい「GAのスマホ版を作ったら,今なら売れますよ!」と言ってしまったんです。そしたらすでに当のプロジェクトが用意されていて,その後はご覧の通りです(笑)。

4Gamer
 GAMの開発チームには,元からGAシリーズに携わっていた方もいるのでしょうか。

有馬氏:
 私が合流した当初は,私と荒井(事業開発グループマネージャー・荒井好氏)の2人だけでした。荒井は10年以上,GAシリーズのマネージャーを務めている人物です。
4Gamer
 2人から始まったのですか。まさしく少数精鋭ですね。

有馬氏:
 GAMの開発では有名どころのゲームエンジンを使っておらず,一部UIの設計に「Cocos2d-x」のツールを用いているほかは,自社開発のライブラリで賄っています。そのため,著名なゲームエンジンを使って仕事をしていた人ほど,作業にうまくなじめないことが予想されましたので,最初は少人数でじわじわと開発しようと考えました。

4Gamer
 ゲームの素材は基本的に,PC版のものを使用しているのですか。

有馬氏:
 はい,PC版のものをコンバートしています。ただし,素材にはそのまま使えるものと使えないものとがあります。ポリゴンがみっちりと詰まっているオブジェクトはスマホ向けに一手間加えなければなりませんし,その逆もしかりです。

高橋氏:
 このプロジェクトは“PC版のGAという良質な素材をうまく活かすこと”もミッションの1つです。シリーズに長く携わっているスタッフがいるので,開発の軸がぶれず,常に進むべき方向にフォーカスが取れている。おそらく,想像されている以上に効率的な体制ですよ。

4Gamer
 チームの規模は2人から始まり,現状ではどれくらいの人数になっているのでしょう。

有馬氏:
 その後,デザイナーのomochiを加え,私と荒井とomochiの3人が中核となって制作してきました。ほかにもデザイナーをもう1人,プログラマが3人と,主に計7人体制で制作しています。

4Gamer
 ゲーム開発の現場を知らない人間からすると,7人でゲームを作るというのはとても大変そうに聞こえるのですが。よくいう,デスマーチ的な。

有馬氏:
 んー,まったくないですよね。

高橋氏:
 ええ,そうですね。

有馬氏:
 まず私たちのプロジェクトは,いつに何ができているかの目標を決めていますが,それに関する細かい仕様書やガントチャートはほとんどありません。ですが,私を含む中核の3人はマネージャー職を経験してきているので,何か起きたら,各自でタスク表を作って持ち合い,現場ですぐさま対応できます。

 そもそも,基本的に自己管理を徹底していますし,GAMの面白さをきちんと理解し合えていますし,なにより“そういう人たちがヤンチャをするプロジェクト”でもありますので,必要なものはとことん作り,問題があればすぐに解決案を探る,そういうスタンスで仕事できるんです。

4Gamer
 ……ガントチャートがない現場というだけで,人によっては卒倒してしまいそうですね。

有馬氏:
 それを成しえる人材ってところでいえば,少数精鋭といえるのかもしれません。

高橋氏:
 大本のGAにしても,当初は大和田(取締役・大和田豊氏)と浅原(浅原慎之輔氏)が2人で作っていたものですしね。

4Gamer
 現代でいうところの,インディーズゲームのシーンに近かったのかもしれませんね。

有馬氏:
 あと,これは今ゲーム開発の現場にいる方々に伝えたいのですが,自分が作っているゲームを自分で遊べていない人は,ぜひともサイバーステップに来てみてください。こういう体制で,自分がおもしろいと思えるゲームが作れます。

4Gamer
 突然の勧誘でしたが,はい,皆さんサイバーステップはいかがでしょう(笑)。では話を戻しまして,GAシリーズは韓国をはじめ,アジア圏で人気を博していましたが,当時は何か戦略的な狙いというものがあったのでしょうか。